未亡人の意味とは

未亡人(みぼうじん)とは、夫と死別した女性を意味する言葉です。漢字の成り立ちから見ると「未だ亡くなっていない人」という意味合いを持っています。
もともとは中国から伝わった言葉で、古くは夫に先立たれた女性が自分自身を謙遜して「夫が死んだのに私はまだ生きています」という意味で使っていました。つまり本来は自称の言葉だったのです。
しかし時代とともに意味合いが変化し、現代では単に「夫を亡くした女性」という意味で、自分自身だけでなく他者を指す言葉としても使われるようになりました。日本では長らく使われてきた言葉ですが、近年ではその使用について見直される傾向にあります。
未亡人という言葉を使ってはいけない理由
「夫より先に死ぬべき」という悲しい由来だから
未亡人という言葉が使われ始めた背景には、古代中国の「殉葬(じゅんそう)」という風習があります。夫が亡くなった際には妻も命を絶つという習慣があり、この風習に背いて生き残った女性は「夫が死んだのにまだ生きている人」という意味で「未亡人」と自分を呼びました。
つまり女性に対して「あの人は未亡人だ」などと言うことは、「夫が亡くなったのに死なずに生きている人だ」というような意味にも捉えられます。たとえそのような深い意味を知らないとしても、使って良い表現とは言えないでしょう。
時代とともに言葉の感覚が変わったから
現代日本では、未亡人という言葉は徐々に使われなくなってきています。例えば、朝日新聞の用語などの取り決め集では、1988年12月より未亡人という言葉は「性差別用語」に指定されています。実際、1984~93年までに未亡人という言葉が使われたのは739回だったのに対し、2003~2012年までは125回と大幅に減少しています。
また、複数の国語辞典でも「失礼な言い方」と明記されるようになりました。メディアや公的な場での使用は避けられる傾向にあり、敬遠されている言葉と言えます。
出典:国立国語研究所の「言語行動における配慮表現」の研究報告
実際に使われて傷つくから
実際に夫を亡くした女性からは「未亡人と他人に呼ばれると良い気がしない」という声があります。
死生学の専門家で自身も夫と死別した小谷みどり氏は『他人から"未亡人ですね"と言われるとあまり気分が良くない。字面だけ見ると"まだ死んでいない人"という意味なので、他人に使っていい言葉ではないはずだ』と指摘しています。
出典:小谷みどり「没イチ、カンボジアでパン屋はじめます!」『考える人』新潮社
さらに、同じように配偶者を亡くした場合でも、妻を亡くした男性には「未亡人」という呼称はなく(「鰥夫(かんぷ)」という言葉はあるものの日常ではほとんど使われない)、女性だけがこのような特別な呼び方をされることへの違和感も指摘されています。
以上の理由から、「未亡人」は他者に対して使うべきではない言葉と認識されるようになってきました。
【類義語】後家・寡婦・やもめの意味と使い分け

後家(ごけ)
後家(ごけ)とは、夫が亡くなった後も再婚せず家を守っている女性を指す言葉です。「未亡人」よりも日本の家制度と結びついた色合いが強い言葉で、「家」を継ぐという意識が反映されています。
かつては一般的に使われていましたが、現代ではあまり耳にすることがなくなった古い表現です。失礼な意味合いはないものの、日常会話で使われることはほとんどありません。
寡婦(かふ)
寡婦(かふ)という言葉も、夫と死別して再婚していない女性を指します。しかし、こちらは日常会話で使われることはほぼなく、主に公的書類や手続きの場、税金や公的年金制度においての専門用語として登場します。
日本には夫を亡くした女性をバックアップする制度があり、所得税の控除なら「寡婦控除」と、公的年金なら「寡婦年金」などと表されます。行政や法律の文脈で使われる正式な表現ですが、普段の会話で「あの人は寡婦だ」などと言うことはありません。
やもめ
やもめとは「配偶者を失った人」を意味し、男性にも女性にも使える言葉です。「男やもめ」「女やもめ」という形で性別を区別することもあります。
元々は男女どちらにも使用できる点が特徴的ですが、これも古風な表現で、現在では若い世代があまり使わない言葉になっています。文学作品や昔話などでは見かけることがありますが、日常的には「やもめ暮らし」といった慣用表現以外ではほとんど使われません。
なお、男性で配偶者と死別した場合の正式な表現としては「鰥夫(かんぷ)」がありますが、一般にはほとんど知られておらず、使われることも極めて稀です。公的な場面でも「妻と死別した男性」といった表現が主流です。
これらの言葉はいずれも「夫と死別した女性」や「配偶者を亡くした人」を指しますが、使われる文脈や場面、またニュアンスに違いがあります。現代では特別な呼称をつけず、「○○さん」など普通に呼ぶ方が無難でしょう。
配偶者を亡くした人への接し方とマナー

配偶者を亡くした方に接する際には、言葉遣いや態度に配慮が必要です。ここでは適切な接し方のポイントをご紹介します。
未亡人とは呼ばない
まず大切なのは、「未亡人」という言葉で呼ばないことです。前述の通り、この言葉には否定的な背景があり、当事者を傷つける可能性があります。単に「○○さん」と名前で呼んだり、必要なら「○○さん(亡くなった旦那様の名前)の奥様」といった呼び方にとどめましょう。
声掛けのポイント
声をかける際は、相手の気持ちに寄り添う姿勢が大切です。以下のような言葉が適切でしょう。
「お力落としのことと思います」
「いつでも話を聞くからね」
「何かできることがあれば言ってください」
逆に、以下のような言葉は避けた方が無難です
「もう○○なんだから元気出して」
「まだ若いんだから再婚できるよ」
「時間が解決してくれるよ」
このような言葉は、相手の悲しみを軽視したり、無理に前向きにさせようとする印象を与えかねません。大切なのは、相手のペースを尊重し、無理に励まそうとせず、そばにいるという姿勢を示すことです。
サポートの方法
実務的なサポートも重要です。例えば以下のようなことが考えられます。
・日常生活の手伝い(買い物、食事作り、子どもの世話など)
・行政手続きの情報提供や同行
・話し相手になる、一緒に外出する
ただし、押し付けにならないよう、相手の意思を確認しながら提案するといいでしょう。「○○しましょうか?」と具体的に提案する方が、「何かあったら言ってね」と言うよりも実際に役立つことが多いです。
グリーフケアの視点
悲しみのプロセス(グリーフ=大切な人を失った際に経験する深い悲しみや喪失感)は人それぞれです。ある人は泣き続け、ある人は一見冷静に見えるかもしれません。どちらも正常な反応であり、個人のペースで悲しみと向き合うことが大切です。
もし相手が専門的なサポートを必要としているようであれば、グリーフケア(喪失による悲しみのケア)の専門家や遺族会といった支援グループの情報を共有するのも一つの方法です。ただし、押し付けるのではなく、選択肢として提示するようにしましょう。
最も大切なのは、一人で抱え込まないよう見守り、必要な時にそっと手を差し伸べる姿勢です。言葉よりも、寄り添う気持ちが相手に伝わるものです。
夫を亡くした女性が前向きに生きるために

配偶者との死別は人生の大きな転機です。ここでは、夫を亡くした女性が少しずつ前向きに生きていくためのステップをご紹介します。
ステップ1:悲しみを受け止める
まずは無理に感情を抑え込まないことが大切です。悲しみ、怒り、罪悪感、混乱など、様々な感情が押し寄せるかもしれません。それらは自然な反応であり、すべて受け入れましょう。泣きたい時は泣き、怒りを感じる時は感じるままに。自分のペースで心の整理をすることが、次のステップへの土台となります。
「私はまだ悲しんでいいんだ」と自分に許可を与えてください。悲しみの表現に正解はありません。あなたの感じ方で大丈夫です。
ステップ2:周囲のサポートを受け入れる
一人で抱え込まず、家族や友人など信頼できる人に支えを求めましょう。「助けて」と言うのは弱さではなく、勇気ある行動です。
また、同じ経験をした人との交流も心の支えになります。遺族会や支援グループなど、同じ境遇の人が集まる場に参加してみるのも一つの方法です。
話すことで心が軽くなることもあります。また、専門家によるカウンセリングを受けるという選択肢もあります。グリーフカウンセラーや臨床心理士などの専門家は、あなたの心の整理を手助けしてくれるでしょう。
ステップ3:生活の再構築
心が少し落ち着いてきたら、現実的な課題に一つずつ取り組んでいきましょう。
例えば
・遺族年金の申請
・保険金の手続き
・名義変更などの諸手続き
・必要なら仕事や住居の見直し
これらの手続きは大変ですが、一つひとつクリアしていくことで、少しずつ前に進む実感が得られます。行政の窓口や専門家(弁護士、ファイナンシャルプランナーなど)に相談するのも良いでしょう。
また、規則正しい生活を心がけることも重要です。食事、睡眠、適度な運動は心身の健康の基本です。無理のない範囲で日常生活のリズムを整えていきましょう。
ステップ4:新たな目標や繋がりを見つける
時間が経つにつれて、新しい目標や楽しみを見つけることが大切になってきます。以前から興味があったことに挑戦したり、新しい趣味を始めたり、ボランティア活動に参加するなど、自分なりの形で社会とのつながりを回復・拡大していきましょう。
「自分は一人じゃない」「まだ人生にやりたいことがある」と実感できることが、前向きに生きる力になります。亡くなった配偶者も、あなたの幸せを願っているはずです。自分らしく生きることが、最大の供養になるとも言えるでしょう。
再婚を考える場合も、罪悪感を抱く必要はありません。あなたの幸せを第一に考え、自分のペースで決断すればよいのです。
一歩一歩、自分のペースで進んでいくことが大切です。すべてが一度にうまくいく必要はありません。小さな前進を自分で認め、褒めてあげましょう。
あわせて読みたい
よくある質問
「未亡人」と呼ぶのは本当に失礼ですか?
はい、一般的に失礼とされています。語源から見ても他人が使う言葉ではなく、現在は差別的表現と捉えられることもあります。できるだけ使わず、他の表現で本人の気持ちに配慮しましょう。
妻を亡くした男性は何と呼ぶのですか?
男性の場合は「鰥夫(かんぷ)」という言葉がありますが、日常ではほとんど使われません。代わりに「妻に先立たれた男性」などと表現します。俗に「男やもめ」と言うこともありますが、これも口語的表現です。現代では男女問わず「配偶者と死別した人」と表現するのが一般的です。
「未亡人」と「寡婦」「後家」はどう違いますか?
未亡人は一般的な言い方で、夫と死別した女性全般を指します。寡婦は法律や行政用語で、未婚・離婚ではなく死別によって配偶者を失った女性を指す公的な表現です(例:寡婦控除)。後家は古い言い方で、夫を亡くした後も嫁ぎ先の家に留まる女性を指しました。ニュアンスの違いはありますが、いずれも夫と死別した女性という点では共通しています。現代の日常会話でこれらを使うことは稀です。
配偶者を亡くした人には何と声をかければ良いですか?
声掛けには細心の配慮が必要です。基本は相手の気持ちに寄り添うこと。「大変でしたね」「いつでも話聞くからね」といった相手本位の言葉がおすすめです。「早く元気になって」など急かす言葉や、「未亡人」という表現は避けましょう。沈黙も時には思いやりです。無理に励まそうとせず、そばにいるよという姿勢を示すだけでも十分支えになります。
未亡人になったら受けられる支援制度はありますか?
いくつか公的な支援制度があります。代表的なものに遺族年金があります。夫が加入していた年金から条件を満たせば遺族基礎年金や遺族厚生年金を受給できます。また所得税の寡婦控除(死別後婚姻していない女性対象の税控除)も利用できる場合があります。自治体によっては、配偶者と死別した人向けの相談窓口やサポート団体もあります。困ったときは市区町村の窓口や専門機関に問い合わせてみましょう。
「没イチ」という言葉を聞いたことがありますが何ですか?
「没イチ」とは、最近使われ始めたスラングで「配偶者に先立たれた人(=一人を亡くした)」という意味です。男女問わず使える新しい表現として、一部の当事者や作家によって提案されています。まだ一般には浸透していませんが、従来の「未亡人」という言葉に代えて前向きに捉える呼称として使われることもあります。
まとめ
「未亡人」という言葉は、もともと「夫が死んだのにまだ生きている」という自己卑下の表現から生まれ、現代では使用が避けられる傾向にあります。
本記事で解説したように、この言葉には否定的な背景があるため、現代では使わない方が無難です。
代わりに大切なのは
・特別な呼び方ではなく「○○さん」と普通に接すること
・相手の心情に寄り添い、無理に励まさないこと
・必要に応じて実務的なサポートを提供すること
そして配偶者を亡くした方自身は、悲しみを受け止め、周囲のサポートを受け入れながら、少しずつ前に進んでいくことが大切です。あなたのペースで、自分らしく新しい一歩を踏み出していきましょう。
言葉よりも大切なのは、心のこもった関わり方です。私たちは言葉の選び方一つで、人を傷つけも、励ますこともできます。相手の気持ちを第一に考えた思いやりのある接し方を心がけましょう。