六波羅蜜とは

六波羅蜜(ろくはらみつ)とは、大乗仏教の教えに基づき、菩薩が実践した6つの修行のことを指します。
仏の境地に達するために、生きる中で意識すべき6つの事柄を実践し、修行を積むことが重要とされています。
以下では、意味や目的などについてさらに紹介します。
六波羅蜜の意味
六波羅蜜は上記でも言いましたが、菩薩が行うべき6つの修行であり、悟りを開いて仏になるために弟子や仏教徒が行います。
古代のインドの言葉が使用されて訳された用語で、
パーリー語ではパーラミ、サンスクリット語ではパーラミタと言われており、それぞれ「般若波羅蜜多」という言葉が多く含まれています。
パーラーは彼岸であり悟りの窮地、ミターは「渡る」という意味があるため、それぞれの言葉を合わせて「彼岸に到達する」という意味になるようです。
般若経では六波羅蜜を成就させることが到達岸になっており、華厳経では六波羅蜜に4種が加わって十波羅蜜になっています。
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六波羅蜜の目的
六波羅蜜を行う目的は仏教徒の方だと、悟りを開くための修行となり、お釈迦様の教えの窮地に達するためです。
ただ、仏教用語でもあるため、あまり一般の人にとっては関係ないように思えるかもしれません。
しかし、六波羅蜜の教えは「人に優しくする」「正しく生きる」という目的について考えるべき要素も含まれています。
例えば、慈悲の心について深く知ると、人に優しくするために行動できるように意識もします。
また、「苦しみから解放されるための修行法」とも言われているため、悩みなどから解放されたい場合に教えを取り入れようとする人もいるようです。
そのため、修行僧だけでなく、一般の方でも自分の日常生活に意味を持つために取り入れている方もいます。
六波羅蜜の6つの内容とは?

六波羅蜜では6の教えがあり、布施、持戒、忍辱、精進、禅定、智慧です。
それぞれの言葉には意味があり、大乗仏教の教えの根幹を理解できます。
それぞれの内容について紹介していきましょう。
布施(ふせ)
布施をわかりやすく言うと、「親切」となります。
布施は読経のお礼としてお坊さんに渡すお金と思われがちですが、それは「財施」に当たります。
本来の布施の目的は人に奉仕する意味合いがあり、他にも2つの教えがあり、法施と無畏施です。
法施はお経を唱えて説法を必要な人に与えることであり
無畏施は人々の不安を取り除くことです。
布施の実践
修行僧の方はお彼岸になると、お経を唱えたり人々の相談にのったりして不安を取り除くように行動しています。
見返りを求めるのではなく、他者に対して施しをし、物惜しみない心を具現化させるのが本来の目的です。
したがって、修行僧にとっても始めにあげられる大切な教えと言えます。
日常生活でも他人を助けることや傲慢にならないことは大切なので、意味として心に刻んでおくのは大事です。
持戒(じかい)
持戒(じかい)とは、悪い習慣を断ち、良い行いを習慣化することです。
戒という漢字を見ると制約や制限が多くて、縛られた生活という意味合いを強く感じるかもしれませんが「悪いことをやめて良いことをする」ように心がけます。
持戒の実践
自分が今の日常生活で悩んでいることや苦しんでいることは、自分の考えが影響している場合もあるため、根本的な原因を考えることで解決できるケースがあります。
また、自分が悪いことをしていても、それで利益を得られているなら止めるのが難しく思える方もいるでしょう。
そのような悪い行いが習慣化されているなら、改善することで自分の問題を解決でき、モヤモヤした気持ちや葛藤も無くなる可能性があります。
自分勝手な考えや行動を無くすことは、修行僧にとっても悟りを開くために必要な部分ですが、一般の方でも生きていく上で爽やかな気持ちを持てる要素になるはずです。
忍辱(にんにく)
忍辱はじっと耐え忍ぶことであり、自分が何か嫌なことや辛いときに活用する行動です。
忍辱の実践
忍辱の例として、相手と約束をしていて破られたときは自分が不利益を被るため怒りが込み上げてくる場合もあるはずです。
また、仕事の場合などでは表面上穏やかに接していても、心の中では「容赦している」と思う場合もあるでしょう。
しかし、表には出さなくても心の中で我慢しているような状態だと、後にストレスが溜まって怒りが爆発する場合もあります。
そのため、忍辱は自分を1番にして考えるという我欲を捨て、慈悲の心で耐え忍ぶ必要があります。
忍辱を心に留めておくと、どのような苦境でも穏やかさを保つことができるため、修行だけでなく日常生活でも活用できます。
精進(しょうじん)
精進は怠けることなく修行に励み、目標を達成できるように動くことです。
修行する中では厳しいこともあり、嫌になってしまって怠けてしまいたくなる場合もあります。
しかし、手を抜いてしまうようなことになれば、目標を達成することは不可能です。
精進の実践
お釈迦様は家にある財宝を他の人に取られないように、賢者は努めに励むように言われているため、勤勉に働くことの大切さを説いています。
精進は日常の中でも大事な面であり、一生懸命に働かなくては生活を維持することはできません。
また「独立したい」など、何か大きな夢を実現したい気持ちがある時も、怠けてしまうと叶わないでしょう。
挫けてしまいそうな場合は身が引き締まるように自分の行いを顧みるようにし、自分の目標を達成する努力に励むようにすべきです。
禅定(ぜんじょう)
禅定とは、心を一つに留め、動じない精神を保つことを意味します。
修行においては、どのような状況でも冷静さを失わず、心を落ち着かせることが大切とされています。
禅定の実践
人は日常生活の中で聞いたり見たりして様々な情報を得ますが、その分考えることが多くなり、惑わされてしまう場合があります。
そして、頭の中の情報が自分の苦悩や悩みに繋がり、心が掻き乱される場合があるため、精神力を保つのは大事です。
禅定によって自分の心にのみ意識を傾けるようにするなら、自分が考える煩悩や不安を打ち消し、惑わされずに済むため、どんな状況でも平常心を保てます。
禅定による精神力の安定を身に付けるなら、毎日が退屈な日々であったり、苦しい状況になったりする日常生活の中でも動じません。
日々の小さなことにも感謝できるようになるため、安楽を得られます。
智慧(ちえ)
智慧は物事を正しく見る力です。
真実を見極める意味が強く、目に見えることだけに捉われず、俯瞰して物事を見つめて真実を見抜くように努めます。
私たちが見るものは一見真実を見ているように思えても、実際には自分の都合が良いように感じてしまう場合もあり、その見方が己を苦しめます。
智慧の実践
修行するときは物事を正しく捉えるために、様々な角度から見るように意識することに励むのがポイントです。
そして、智慧は修行だけでなく、日常生活でも必要になる見方です。
自分の都合の良い部分のみを見たり、受け入れたりするだけであれば、他の面について疎かになるため、ギャップから生じる苦しみを受けて悩みや不安に変わります。
物事の良し悪しを判断して正しい見方を持つのは不安を抱かないようにする面でも大事と言えるため、身につけておきたいものです。
六波羅蜜と八正道の違いとは?
六波羅蜜と似た修行の言葉で八正道があり、違いについて分からない人もいるでしょう。
六波羅蜜は6つの修行について教えていますが、八世道の場合は煩悩から離脱した境地を指すための道です。
サンスクリット語では「ニルヴァーナ」が使用されており、8つの言葉が書かれている意味に沿った内容で修行します。
・正見(施し)
・正思(戒律を守る)
・正語(忍耐)
・正命(正しさ)
・正業(努力)
・正命(平静を保つ、内省)
・正精進(修養)
・正念(道理を見極める)
八正道の教えの中にも、六波羅蜜で含まれている修行があります。
ただ、八正道への教えの中には布施と忍辱は含まれていません。
そのため、八正道よりも六波羅蜜の方が大乗仏教の「他社救済」という意味を強く感じられ、教えがよく表されていると思う人も多いです。
六波羅蜜を行う方法

六波羅蜜にお墓は必要ない
六波羅蜜は修行の1つであるため、お墓は特に必要とされてはいません。
お彼岸の時期は先祖の供養行事になりますが、仏道では仏に誓いを立てて修行を行います。ただ、宗派によってお墓への接し方は変わる場合もあります。
六波羅蜜は簡易仏壇でも行える
簡易仏壇では、お線香やロウソク、供物を供えます。
お彼岸の7日間ではお盆に簡易的に供物をする人もいますが、現代の場合は位牌のない小さな仏壇のような仕立てで供養するケースもあるようです。
現代では大きな仏壇を持つことは少なくなっており、できるだけ簡素に行いたい方も増えています。
そのため、六波羅蜜をお彼岸に行うだけであれば、線香やロウソクなど100円均一で揃えたとしても問題ありません。
六波羅蜜は西方で行う
六波羅蜜を太陽が真西に沈む西方に向かって行う場合、春と秋のお彼岸では、春分・秋分を中日とし、前後3日間を含めた7日間の日程で実践します。
真東と真西は、この世(此岸)とあの世(彼岸)が最も近くなる日とされており、お墓参りする風習が生まれる起源にもなります。
西方浄土では西方に極楽浄土があるとされているため、仏壇がない場合でも西方に手を合わせるのが風習です。
お墓がなくても西方浄土の場合は西方で行うケースもあると覚えておきましょう。
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六波羅蜜で供えるもの
六波羅蜜で春と秋のお彼岸に供える物は「五供」です。
5つの物とされているのは以下のとおりです。
・香(お線香)
・花(ロウソク)
・灯明(ロウソク)
・飲食(おんじき)
・水(水)
お供え物は、基本的に仏壇の世話をしている人であれば変わりません。
大きな物や高価な物は必要でなく簡易的に行えるため、金銭的な面でも負担が少ないです。
2025年のお彼岸と六波羅蜜の実践スケジュール
お彼岸は、春と秋の年2回訪れる大切な供養の期間です。
仏道では、この期間を極楽浄土と最も近づく修行の時期と考え、一日一つの「六波羅蜜(ろくはらみつ)」を実践する習慣があります。
六波羅蜜の実践ポイント
①中日は「先祖供養の日」
春分・秋分の日は、お彼岸の中日(ちゅうにち)とされ、特にご先祖様に感謝を捧げる日です。
お墓参りができない場合でも、自宅や菩提寺で手を合わせるだけでも立派な供養になります。
②六波羅蜜を実践する
お彼岸の前後3日間は、六波羅蜜(布施・持戒・忍辱・精進・禅定・智慧)を一日一つずつ意識して実践する期間とされています。
日常の中で、自分の行いを振り返り、感謝の気持ちを持つことが大切です。
③お墓がなくても問題なし
「先祖代々のお墓がない」という家庭でも、お彼岸の供養は可能です。
仏壇やご先祖様の写真の前で手を合わせたり、心の中で感謝を伝えることが何より大切です。
【春彼岸】六波羅蜜を実践する日程
何の日 | 2025年春彼岸 | 六波羅蜜 | 供え物(すること) |
---|---|---|---|
彼岸入り | 3月17日(月) | 布施 | 供物 |
2日目 | 3月18日(火) | 持戒 | お線香 |
3日目 | 3月19日(水) | 忍辱 | 供花 |
春分の日 | 3月20日(木) | 先祖供養 | お墓参り |
5日目 | 3月21日(金) | 精進 | 塗香 |
6日目 | 3月22日(土) | 禅定 | 仏飯 |
彼岸明け | 3月23日(日) | 智慧 | ロウソク |
【秋彼岸】六波羅蜜を実践する日程
何の日 | 2025年秋彼岸 | 六波羅蜜 | 供え物(すること) |
---|---|---|---|
彼岸入り | 9月20日(土) | 布施 | 供物 |
2日目 | 9月21日(日) | 持戒 | お線香 |
3日目 | 9月22日(月) | 忍辱 | 供花 |
秋分の日 | 9月23日(火) | 先祖供養 | お墓参り |
5日目 | 9月24日(水) | 精進 | 塗香 |
6日目 | 9月25日(木) | 禅定 | 仏飯 |
彼岸明け | 9月26日(金) | 智慧 | ロウソク |
六波羅蜜寺とは?
京都には六波羅蜜寺がありますが、名前の由来は教えからきていると言われています。
建造の歴史
六波羅蜜寺は踊り念仏で知られる市聖空也(いちのひじりくうや)が平安時代中期に造立されたと言われています。
十一面観音を本尊とする道場に由来しており、市聖空也は京都で像を引きながら念仏を唱え、病人に茶を振る舞って多くの人を救ったという逸話もあります。
ただ、当初は造立されたときは六波羅蜜寺という名前ではなく、空也の死後に比叡山延暦寺の僧であった中信が改名したようです。
平安時代末期は平正盛が阿弥陀堂を建立し、その後は六波羅蜜寺とも繋がりを持つようになりました。
その後、時代と共に修繕や再建を繰り返しながらも、立派な寺院として現代にまで残っています。
六波羅蜜寺の見どころ
12年に一度の秘仏「十一面観音像」
ご本尊である十一面観音像は秘仏として飾られており、通常はお目にかかれません。
しかし、12年に一度辰年にご開帳されるため、タイミングが合えば六波羅蜜の元になった像を見られます。
市聖空也の「空也上人立像」
六波羅蜜寺を創建した市聖空也(いちのひじり くうや)の姿を再現した空也上人立像も見どころの一つです。
また、他にも有名な彫刻像を見ることが可能です。
霊場巡りの札所
「西国三十三所霊場の第17番」「洛陽三十三所霊場」の第15番など観音霊場としても知られており、都七福神の弁財天のお寺としても篤い信仰を集めているため、様々な方が観にこられます。
よくある質問
お彼岸との関係は何ですか?
六波羅蜜は仏様の境地に至るために、この世で行う修行のことです。
お彼岸はこの世とあの世が近くなり、悟りの世界である極楽浄土が近くなるため修行期間になります。
そのため、お彼岸は六波羅蜜を実践するのに最適な期間とされ、修行を行う機会とされています。
浄土真宗では六波羅蜜を行わないのですか?
浄土真宗において六波羅蜜はしても、しなくてもどちらでも大丈夫です。
行った方が救いに近づくというわけでもなく、遠ざかるという考えでもないからです。本人の自由に任されているので、大きく関わっているとは言えないでしょう。
般若経との違いはありますか?
般若経は、般若波羅蜜(智慧の完成)の教えを説く経典です。
一方、六波羅蜜は、菩薩が実践すべき6つの修行を指し、仏道を歩む上で重要な実践行とされています。
六波羅蜜は具体的な修行の実践であり、般若経はその教えを説いた経典であるため、この点に違いがあると言えるでしょう。
四波羅蜜とは何ですか?
四波羅蜜は仏語であり、涅槃 (ねはん) に備わる四つの徳を指しています。
常・楽・我・浄という言葉で表されており、永遠や安穏、主体的、清浄であることが意味として含まれています。
六波羅蜜は布施、持戒、忍辱、精進、禅定、智慧であり、いずれも言葉と内容が異なるため、思想の違いを確認しておきましょう。
十波羅蜜とは?
十波羅蜜は大乗仏教で説かれる 10種の完成された行いです。
六波羅蜜の最後である智慧をさらに分類して4種加えられています。
智慧は日常の言語を離れた無分別智であると考えられ、現実の生活に真実で展開される様子を4種によって示す意味が含まれています。
まとめ
この記事では、六波羅蜜の内容について紹介してきました。
六波羅蜜は大乗仏教の教えにより、菩薩が実践した修行であり布施、持戒、忍辱、精進、禅定、智慧の6つがあります。
それぞれ修行を行うことで煩悩を消し去ることができ、心の不安を取り除くことができて平安を得られます。
僧の修行ですが、現代でも通じるところがあり、日常生活に役立てることは可能です。
何か不安や悩みがあるようであれば、自分の心の状態を見てみるのもおすすめです。
お彼岸の際も習慣化されていることは少なく、他の仏教と大きな違いはないと言えるでしょう。
六波羅蜜について、詳細な内容を知っていただければと思います。