「浄土宗」と「浄土真宗」の歴史や特徴
「浄土宗」と「浄土真宗」は、同じ阿弥陀仏を信仰する仏教の宗派で、日本でも代表的な宗派なので聞いたことがある方も多いでしょう。
特に浄土真宗は、最も信者数が多く、全体の約48% (浄土真宗本願寺派:約32%、真宗大谷派:約16%)を占めています。
ここからは、それぞれの歴史的背景や特徴について詳しく解説していきます。
開祖と成立時期
●浄土宗
法然上人(ほうねんしょうにん)によって、平安時代末期に開かれました。
1133年岡山県で生まれた法然上人は、9歳の時に父親を殺され、その遺言によって出家し43歳で「浄土宗」を開いたのです。
阿弥陀仏の本願に基づき、念仏を唱えることで誰もが救われると説きました。
総本山は、京都にある「知恩院」です。
●浄土真宗
法然上人の弟子である親鸞聖人(しんらんしょうにん)によって鎌倉時代に開かれました。
9歳で出家した親鸞聖人は、29歳の時に法然聖人と出会い、教えをさらに深め、阿弥陀仏の本願を信じることの重要性を強調しました。
浄土真宗は「本願寺派」と「大谷派」に分かれ、本願寺派の本山は京都の「龍谷山本願寺」、大谷派の本山は京都の「真宗本廟」になります。
浄土宗と浄土真宗の教え
浄土宗では、「南無阿弥陀仏」と念仏を唱えることで、誰でも極楽浄土に往生できると教えています。
この教えは「専修念仏」と呼ばれ、念仏を唱える行為自体に重きを置いています。
しかし、浄土真宗では阿弥陀仏の本願を信じること、すなわち「信心」を最も重要視し、念仏はその信心の表れであり、救いは阿弥陀仏の力によるものであると考えます。
このため、浄土真宗では「他力本願」の教えが強調されています。
戒律と僧侶の生活
浄土宗の僧侶は、伝統的な戒律を守り、「結婚してはならない・坊主でなければならない・肉を食べてはならない」など出家者として禁欲の生活を送るのが一般的でした。
一方で、浄土真宗の僧侶には特定の戒律がなく、髪型も自由で、結婚や肉食も認められています。
これは、親鸞聖人自身が結婚し、家庭を持っていたことに由来します。
また、「すべての人が差別なく、幸せになれることこそが本当の仏教」と伝えたかったためと言われています。
このように、浄土真宗では在家信者と僧侶の区別があまりなく、共に阿弥陀仏の教えを実践することが重視されています。
「浄土宗」と「浄土真宗」の違い

①仏壇や本尊の違い
浄土宗の仏壇と本尊
浄土宗の仏壇は、主に木目の美しい唐木仏壇が用いられます。
本尊は、阿弥陀如来の木像や絵像が一般的です。
中央に阿弥陀如来像を安置し、向かって右側に高祖善導大師、左側に法然上人の像を配置することが多いです。
また、最上段に位牌を安置するのが一般的です。
浄土真宗の仏壇と本尊
浄土真宗の仏壇は、全体が金色の金仏壇が特徴です。
阿弥陀如来の名号(「南無阿弥陀仏」と書かれた掛け軸)を本尊とすることが一般的です。
向かって右側に開祖である親鸞聖人の絵像や「帰命尽十方無碍光如来」の十文字、左側に第8代宗主蓮如上人の絵像や「南無不可思議光如来」の九文字を配置します。
また、浄土真宗では位牌を用いず、過去帳を使用するのが一般的です。
さらに、浄土真宗は本願寺派(西本願寺)と大谷派(東本願寺)に分かれ、仏壇の柱の色に違いがあります。
本願寺派では仏壇内部の柱が金色、大谷派では黒色に塗られています。
②浄土宗と浄土真宗のお経の違い
浄土宗でよく唱えられるお経
浄土宗では、「阿弥陀経」「観無量寿経」「無量寿経」の三つをまとめて「浄土三部経」と呼び、これらを特に重視しています。
これらのお経は、阿弥陀仏の教えや極楽浄土の様子を説いており、念仏を唱えることで極楽浄土に往生できるとされています。
また、浄土宗では「南無阿弥陀仏」と十回唱える「十念」という唱え方が一般的です。
浄土真宗でよく唱えられるお経
浄土真宗でも「浄土三部経」を大切にしていますが、特に「正信偈(しょうしんげ)」を重視します。
これは、親鸞聖人が阿弥陀仏の本願や浄土真宗の教えをまとめたもので、日常の勤行や法要でよく唱えられます。
また、浄土真宗では「南無阿弥陀仏」を唱える回数に特に決まりはなく、阿弥陀仏への感謝や信頼の気持ちを込めて念仏を唱えます。
さらに、浄土宗では「般若心経」を唱えることがありますが、浄土真宗では「般若心経」を唱えません。
これは、浄土真宗が他力本願の教えを重視し、「般若心経」が自力での修行を説く内容とされているためです。
③葬儀や法要の違い
浄土宗の葬儀と法要
浄土宗の葬儀は、故人が極楽浄土へ往生し、その後修行を経て成仏すると考えます。
そのため、授戒(仏弟子としての戒律を授ける)や引導(故人を仏の世界へ導く)の儀式が行われます。
葬儀の流れは、地域や寺院によって異なりますが、一般的には以下のような順序で進行します。
①通夜
故人と親しかった人々が集まり、僧侶の読経や焼香を行います。
↓
②告別式
僧侶による読経、授戒、引導の儀式が行われ、参列者が焼香を行います。
↓
③火葬
告別式の後、火葬場で遺体を火葬します。
↓
④初七日法要
火葬後、初七日の法要を行うことが多いです。
また、浄土宗では、故人の冥福を祈るために四十九日や一周忌などの法要を重視します。
これらの法要では、僧侶の読経や参列者の焼香が行われます。
浄土真宗の葬儀と法要
浄土真宗では、故人は亡くなった瞬間に阿弥陀仏の力によって極楽浄土へ往生し、即座に成仏すると考えます。
そのため、他の宗派で行われる授戒や引導の儀式は行われません。
葬儀の流れは以下の通りです。
①臨終勤行
故人が息を引き取った後、僧侶が読経を行います。
↓
②通夜
僧侶の読経と参列者の焼香が行われます。
↓
③葬儀・告別式
僧侶の読経と焼香が中心で、授戒や引導の儀式は行われません。
↓
④火葬
葬儀・告別式の後、火葬を行います。
浄土真宗では、故人の冥福を祈るというよりも、阿弥陀仏の救いに感謝する意味合いが強いです。
そのため、亡くなってすぐに極楽浄土に辿り着くと考えられている浄土真宗では、初七日に法要をする必要はないのです。
④浄土宗と浄土真宗のお盆の違い
浄土宗のお盆
浄土宗では、一般的なお盆の習慣を重視します。
先祖の霊がこの世に戻ってくると考え、以下のような行事を行います。
●迎え火と送り火
お盆の初日に迎え火を焚き、最終日に送り火を焚いて、先祖の霊を迎え入れ、送り出します。
●盆提灯の飾り付け
家の軒先や仏壇の周りに盆提灯を飾り、先祖の霊が迷わず帰ってこれるように道しるべとします。
●精霊棚の設置
仏壇とは別に精霊棚(しょうりょうだな)を設け、供物や位牌を供えて先祖を供養します。
これらの行事を通じて、先祖の霊を敬い、感謝の気持ちを表します。
浄土真宗のお盆
浄土真宗の教えでは、故人は阿弥陀仏の本願によってすでに極楽浄土に往生しており、特定の時期に霊が戻ってくるという概念はありません。
そのため、浄土真宗のお盆では以下の点が特徴的です。
●特別な飾り付けをしない
盆提灯や精霊棚を設けることはせず、仏壇の飾り付けも通常と同様に行います。
●先祖供養よりも仏法を聞く機会とする
お盆は、先祖を偲ぶとともに、阿弥陀仏や親鸞聖人の教えを聞き、自らの生き方を見つめ直す機会と捉えます。
このように、浄土真宗ではお盆を先祖の霊を迎える行事としてではなく、仏法を学び、自身の信仰を深める時間としています。
⑤故人に授けられる名前の違い
浄土宗と浄土真宗では、故人に授けられる名前に違いがあります。
浄土宗では「戒名(かいみょう)」、浄土真宗では「法名(ほうみょう)」と呼ばれ、それぞれの宗派の教えや伝統を反映しています。
【浄土宗の戒名】
浄土宗の戒名は、以下の要素で構成されます。
●院号(いんごう)
「○○院」のように、故人の功績や人柄を表す称号です。
●誉号(よごう)
「誉」の字が含まれ、浄土宗特有の称号です。
●戒名(かいみょう)
仏弟子としての名前で、故人の徳を表します。
●位号(いごう)
「居士(こじ)」「大姉(だいし)」「信士(しんじ)」「信女(しんにょ)」など、故人の性別や地位を示します。
【浄土真宗の法名】
浄土真宗では「戒名」ではなく「法名」と呼び、以下の要素で構成されます。
●院号(いんごう)
「○○院」のような称号です。
●釋号(しゃくごう)
男性は「釋(しゃく)」、女性は「釋尼(しゃくに)」を用い、お釈迦様の弟子であることを示します。
●法名(ほうみょう)
仏弟子としての名前で、通常は二文字で構成されます。
浄土宗では、戒律を守ることを重視し、戒名を授ける際に位号を用います。
一方、浄土真宗では、戒律を守ることよりも阿弥陀如来の本願を信じることを重視するため、位号を用いず法名を授ける際に「釋」の文字を付けることで、仏弟子となったことを表します。
このように、浄土宗と浄土真宗では、戒名(法名)の呼び方や構成が異なり、それぞれの教義や考え方が反映されています。
浄土宗と浄土真宗の「やってはいけないこと」

浄土宗と浄土真宗は、同じ阿弥陀仏を信仰する宗派ですが、教えや習慣に違いがあり、それぞれに「やってはいけないこと」が存在します。
ここからは、各宗派の禁忌事項について詳しく解説します。
浄土宗でやってはいけないこと
①他宗派の教えや儀式を取り入れること
浄土宗は「南無阿弥陀仏」の念仏を中心とした教えを重視しています。
他の宗派の教えや儀式を混ぜることは、教義の純粋性を損なうと考えられています。
②念仏を軽視すること
浄土宗では、念仏を唱えることが極楽浄土への道とされています。
念仏を怠ることは、教えに反する行為とみなされます。
浄土真宗でやってはいけないこと
①位牌を用いること
浄土真宗では、故人はすでに阿弥陀仏の浄土に往生していると考えるため、位牌を使用しません。
代わりに「過去帳」を用います。
②般若心経を唱えること
般若心経は自力での悟りを目指す教えを含むため、他力本願を重視する浄土真宗では唱えません。
般若心経を唱えてはいけない理由や意味を詳しく知りたい方はこちら!
③線香を立てて供えること
浄土真宗では、線香は寝かせて供えるのが正式とされています。
④神棚を祀ること
浄土真宗では、阿弥陀仏以外の神仏を祀ることを避けます。
⑤清めの塩を使うこと
死を穢れとしないため、葬儀後の清めの塩は使用しません。
浄土宗と浄土真宗、どちらを選ぶべき?
浄土宗と浄土真宗は、どちらも阿弥陀仏を信仰する宗派ですが、多くの場合、生まれ育った家庭の宗派に従うことが一般的です。
家族や親戚との関係を円滑に保つためにも、実家の宗派に合わせるのが無難でしょう。
しかし、結婚や転居により異なる宗派の環境に入ることもあります。
その際は、新しい環境の宗派の教えや習慣を尊重し、柔軟に対応することが求められます。
ただし、無理に自分の信仰を変える必要はなく、最終的には自身の信仰心や家族との関係を考慮し、どちらの宗派に共感できるかを判断することが重要です。
よくある質問
浄土宗と浄土真宗では、数珠の持ち方や使い方に違いはある?
はい、浄土宗と浄土真宗では数珠の形や持ち方に違いがあります。
浄土宗の数珠は108個の玉が基本で、念仏を唱えながら使うため繰り返し繰るのが一般的です。
一方、浄土真宗の数珠は二連になっており、親指と人差し指の間にかけ、輪を開いた状態で手を合わせます。
また、浄土真宗では念仏を修行として唱えるのではなく、信仰の証として称えるため、数珠を繰る動作は行いません。
このように、両宗派で数珠の扱い方に違いがあるので、葬儀や法要の際は注意が必要です。
浄土宗と浄土真宗では、仏壇へのお供えの仕方に違いはある?
はい、浄土宗と浄土真宗では、仏壇へのお供えの考え方や並べ方に違いがあります。
浄土宗では、仏壇の前に「三具足(さんぐそく)」または「五具足(ごぐそく)」と呼ばれる、香炉・花・燭台をバランスよく配置します。
また、供物としてご飯(仏飯)や果物をお供えし、時にはお菓子や故人の好物を供えることもあります。
一方、浄土真宗では、供物は「阿弥陀仏への感謝」を示すものと考えられ、「打敷(うちしき)」と呼ばれる布を仏壇の前に敷き、その上に供え物を置きます。
また、ご飯(仏飯)は必ず朝一番に炊いたものを供え、冷めないうちに下げるのが作法とされています。
浄土宗の家に浄土真宗の人が参列する際、焼香の作法はどうする?
基本的には、その場の作法に合わせるのが礼儀です。
例えば、浄土宗の葬儀では焼香を3回、浄土真宗では1回とされています。
しかし、『自分の宗派のやり方にこだわりたい』という場合は、事前にご遺族に相談しておくとよいでしょう。
まとめ
浄土宗と浄土真宗は、どちらも阿弥陀仏を信仰し、念仏を唱えることで極楽浄土への往生を願う宗派です。
しかし、仏壇や本尊・お経・葬儀や法要・戒名(法名)など様々な違いがあります。
今回の記事では、
・「浄土宗」と「浄土真宗」の歴史や特徴
・「浄土宗」と「浄土真宗」の違い
・浄土宗と浄土真宗の「やってはいけないこと」
などを詳しく解説しました。
この記事を参考に、浄土宗と浄土真宗の違いを正しく理解し、仏壇・法要・供養などの場面で適切に対応できるようにしましょう。